ギリシャ語の時間 ハン・ガン著 斎藤真理子訳

 

韓国の現代小説のご紹介です。

昨今、韓国の女性作家における現代小説が日本で非常に注目されている。今一番タイムリーなのは『82年生まれキムジヨン』(チョ・ナムジュ著  斎藤真理子訳)だろう。日本でベストセラーになっている。

『82년생 김지영』조남주

 

 

小説『ギリシャ語の時間』をご紹介します。

光州事件を題材とした『少年が来る』をはじめ『菜食主義者』で、国際的に最も権威ある文学賞 マン・ブッカー国際賞を受賞した韓国の現代小説家、ハン・ガン(한강)の書下ろし小説です。注意深く読み込まないと、作者特有の散文詩が織り混ざったような繊細な文体はすぐに集中力を欠いてしまう。それにしても訳者の斎藤真理子の翻訳の巧みさには感服する。以前に読んだ『こびとが打ち上げた小さなボール』(チョ・セヒ)や『カステラ』(パク・ミンギュ)も彼女の翻訳だ。

『こびとが打ち上げた小さなボール』(チョ・セヒ著 斎藤真理子訳)

 

 

物語は、言葉を失った女性と視力を失いつつあるギリシャ語の男性講師が主人公となっている。
目の前に存在しない者に対して呼びかけるように二人称の文で語る男性と、古典ギリシャ語という今や死語となったものを通じて喪失した言葉を克服しようとする女性。大都会ソウルの喧騒の陰で二人の世界は静寂と孤独に覆われ、そして心を震わせながら互いに触れ合っていく肌が、透き通った空気と静けさの中で昇華されていく。

文中に古典ギリシャ語で多用されるという”中動態”が何を意味するものかよくわからなかった。能動と受動の真ん中に位置するものなのか。「する」でもなく「される」でもないいわば中庸的なものを意味するものなのか自分なりに考えてみた。”中動態”・・・まさしく、この小説の掴みにくさが表れている。だが、読むにつれどんどん物語にのめりこんで本から目が離せなくなった。

『涙が流れたところに地図を書いておけたなら。言葉が流れ出てきた道を針で突き、血で印をつけておけたらな』

静かに静かに耳を澄ませて読みたくなる小説でした。(S)

 

 

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(2020年9月14日)

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